何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

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041| 振られ男の捨て台詞
 森山からメールが届いた。文面自体は丁寧だった。しかしその内容は、私に対する無理解と勘違いに満ちていた。
「短い間でしたが、アネモネさんとお話しさせていただいて勉強になりました。私のことを信用していただけなかったことは今も残念でなりません。結局最後まで住所は教えていただけませんでしたね。実は私はアネモネさんを仕事にお誘いしようと思っていたのです。スカイプで某大手ゲームメーカーの裏事情を何度かお話ししましたが、私はそこの社員です。察しのいいアネモネさんはとっくにお気づきだと思いますが。私のそれとない勧誘にまったく興味を示していただけなかったのは残念でしたが、アネモネさんは有名企業の大作ゲームのスタッフとして第一線で作品を創るより、素人の集団と一緒になって無名のライターと創作ごっこをなさっている方がお好きなようですので、勧誘は諦めることにいたします。短い間でしたがお付き合いいただき、ありがとうございました」
 イラッとした。本人としては慇懃無礼に煽っているつもりなのだろうが、その的外れな挑発に私は思わず苛ついた。有名企業の名前を出せば、逃した魚は大きかったと私が悔しがるとでも思っているのか。自分の価値観や美意識が私にそのまま通用すると思っているかのような言動、その浅はかさが嫌なんだ。
 私は有名なライターと知り合いたかったわけじゃない。広い世界に出ていって有名になりたいわけでもなければ、自分の生み出した創作物を評価されたいわけでもない。私の望みは、私はただ、そこまで思ったとき不意に、打ち上げイベントの席で私に何かを伝えようとしていた星野さんの姿を思い出した。頭の中から言葉が消え、代わりに涙があふれ出した。どんなに綺麗な愛や理想も、どんなに醜い欲望も、私が星野さんにこだわる理由を説明するには力不足だ。言葉は意味を定義する。その範囲はとても狭い。私の抱えるものすべてをカバーすることなど出来ず、カバーしきれなかったものは存在しないものとして無自覚に否定される。それが言葉だ。言葉は事実や真実を歪め、世界に誤解を拡散する凶器だ。にも拘わらず森山は、わかりやすい言葉を用い、自分の知っている概念の中に私を押し込めようとする。だから私は森山を信用しないし好きにならない、それがわからないのだろうか。
 森山からの最後のメールを私は即座に削除した。
 私を苛立たせる森山の姿が私自身だと気づいたのは、ずっとあとのことだった。
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