何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

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038| 愛着
 良い意味で、アリスは便利に使われているキャラだ。
 セッションの内容から離れた部分でも出番をもらい、動いている。
 アウレーリアやリアーヌだと抵抗を感じるはずなのにアリスだと歓迎出来るのは、アリスというキャラクターを私が嫌っていたからだろうか。

 あの日、森山に告白された夜。星野さんに対する憎悪を聞かされた森山は「シェラフィータを殺しに行っていいと思いますよ」と私に言った。「まあ、殺させてくれないでしょうけどね。でもシェラフィータに襲いかかるアリスを見れば、高梨クンも目を覚ますんじゃないですかね」と森山は付け加えた。
 中盤までは禁じられていた参加シナリオの移動だが、その頃になると認められていて、森山の提案を実行することは充分可能な状態だった。
 しかし私は「嫌です」と答えた。森山に踊らされたくなかったし、それに何より、私の個人的な感情でアリスを汚したくなかったのだ。
 自分でも信じられなかった。アリスは私の個人的な感情から生まれたキャラクターだ。身勝手な逆恨みから生じたキャラ、悪意に満ちた模造品だ。私は元々アリスというキャラを殺すつもりで創った。大嫌いなキャラをコピーして、悲惨な末路を与えたあげく、もしも周囲から非難されれば「自分の創ったキャラクターをどう扱おうと私の勝手」と開き直るつもりだった。実際は悪辣なパロディなのに、キャラの扱いを非難されれば作者が自分であることを振りかざそうとするなんて、まるで我が子を虐待する幼稚な母親の居直りだ。醜い。そうは思っていても、己の姿勢を正すことなどどうでもいいと思えるほど、私はシェラフィータやその仲間を、そしてアリスを憎んでいた。
 だけどセッションを重ねるうちに、私の中で変化が生じた。
 嫌いで嫌いで仕方のなかったアリスというキャラのことを、誇らしく感じるようになった。リプレイ小説で愛情をもって書いてもらえたからだろう。派手な活躍ではなかったけど、私の期待するような描写ではなったけど、アリスのことを気に入ってくれた担当GMが彼女を生き生きと書いてくれた、その事実が私の中に生みの親としての誇りを芽生えさせた。そんなアリスを、私ひとりの手ではなくGMや他の参加者と共に育てたアリスというキャラを、私ひとりの個人的な復讐で汚したくなかった。NPCとなったシェラフィータを見て、私には失うものなど何もないと思い知ったのに、それでも私は殺すつもりで創ったアリスを捨てられなかった。私は矛盾に満ちている。星野さんを脅迫し、彼の対応次第ではブランジァンのセッションメンバーから除名される羽目になるのに、そこでしか価値を有さない己の創作物を守っている。どこまでも支離滅裂だ。私はそれを自覚していた。忘れることも諦めることも折り合いをつけることも出来ず、許すことも愛することも受け入れることも出来ず、胸に渦巻く怒りと憎悪にすべてを委ねることも出来ず、己の脳裏に浮かぶものを誰かと分かちあうことなく、ひとりうずくまっている。なんて馬鹿馬鹿しいんだろう。私のこの存在は、なんて無価値なんだろう。アリスというキャラクターを私は誇っていのではなく、アリスに向けられた好意にすがっているだけなのかも知れない。
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