何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

035| アイのコクハク
 シェラフィータのことですか? ふざけんな、と思いました。第一線で活躍する有名女性プレイヤーのキャラを自分のものにしたことをそんなに自慢したいのか、って感じです。調子乗りすぎですね、あいつは。ええ、そうです。殺してやりたいです。苦しめて後悔させて二度とTRPGを楽しめないような精神状態にしてから、殺してやりたいです。
 自分の生の感情を、私は森山にぶちまけた。
 森山なんかに弱みは見せない、などとはもう思わなかった。
 GMを敵視する森山の悪意を利用してやろう、と思った。星野GMの悪口を思う存分森山に言わせ、それを聞いて少しでも溜飲を下げたいと思ったのだ。
 しかし森山の反応は、予想外のものだった。
 私の罵詈雑言を聞き終えた森山は、しげしげとこう呟いた。
「星野さんが羨ましいです。そんなに憎まれて」
 何を言っているんだこいつは。なんで羨ましがるんだよ。マゾなのか。森山の価値観がまったく理解出来なかった。私が「はぁ……」と呟くと、森山の声は少しだけ得意げなものに変化した。
「憎む、というのは、愛しているからですよね」
 何を言っているんだこいつは。私のことをアニメか何かの二次元キャラだと思っているのか。愛憎が表裏一体だなんて、そう思いたい人が勝手に言っているだけのことだ。人の生み出す理不尽を愛ゆえだと思うことで、彼らは不条理な現実と折り合おうとしているのだ。愛憎が表裏一体だと証明することは不可能だ。知識だけの概念で私の内面を語るな。私の内面を捏造するな。私の中に愛などない。あるのは怒り、純然たる憎悪のみ。そしてそれは私自身の甘さに対するものなのだ。
 私は星野さんを愛していない。星野さんを求めたのはアウレーリアに対する未練ゆえ、つまり自己愛が満たされないことを不服に思っての感情だ。私はそれを自覚している。一年以上前からずっと、嫌というほど自覚している。この私を馬鹿にするな。愛と未練を履き違えるような馬鹿な奴らと一緒にするな。未練がましい執着を愛だ恋だなどと美化して自己陶酔するような、滑稽で愚かしく人間的な感情は、私の中には存在しない。
「私は怒っているだけです」
「すべてをゲームだと割り切っているのにそこまで感情的になるのはやっぱり、彼のことを愛しているからじゃないんですか」
「違います。私はゲームが好きだからムキになっているだけです」
 嘘をついたつもりだった。しかしあとで思い出すと、驚くほど馬鹿正直に自己紹介してしまっていた。そうだ、私は自分自身の幸せには興味がない。現実の中で生きることにまったく意味を見いだせない。私にとっては虚構こそが生きるべき現実世界なのだ。仮想現実での挫折ゆえに、私はムキになっている。私という存在はどこまで単純なんだろう。こんな単純な私のことを誰一人として理解出来ない。いや、私がさせないだけだ。私という存在を、私自身が殺そうとしている。
 森山の押し殺した声がヘッドフォンから聞こえてきた。
「アネモネさん。僕とお付き合いしていただけませんか」
 何を言っているんだこいつは。森山の脳内では、私は星野さんを愛していることになっているのに、なんでこいつはそんな相手に交際を申し込んでいるんだ。わけがわからない。
 絶句する私の鼓膜を森山の声が震わせる。
「アネモネさんって可愛らしくて、僕なんか相手にされないと思っていましたけど。でも最近は、心を開いていろいろなことを話していただいて、ああ、僕はアネモネさんに選んでいただけたんだな、と思ってね。だったら僕もお付き合いしてもいいかな、なんて思ってお願いしたんですけど」
 キモい。マジでキモい。こいつはいったい何なんだ。
 私の拒絶発言を「心を開いていろいろなことを話していただいて」なんて都合よく解釈したあげく、「お付き合いしてもいいかな」なんて上から目線でお願い(笑)なんて、どんだけ勘違いすれば気が済むんだこいつは。気持ち悪い。同じ言語を使っているのにまるで別の生き物のようだ。こいつを深く傷つけてボロボロにしてやりたいと思った。私風俗嬢なんですけど、チンポをしごいて得た金でブランジァンのセッションに参加してるんですけど、ええホスト遊びと一緒です、私は仮想現実のホストにハマってる痛々しい風俗嬢です、お金が大好きなのでこれからも風俗勤務をやめるつもりはないですけど、こんな私と付き合いたいんですかあなたは、とせせら笑ってやりたくなった。
 それを言わなかったのは、彼に対するおぞましさゆえだ。
 拒絶のつもりで自分自身の身上について話しても、彼はまた、心を開いてもらったと勘違いするのではないかと思った。
 苛立ちと嫌悪が募る。しかしその一方で、私は納得してもいた。
 森山は、私のことが好きだったのだ。だから彼はGMを手当たり次第に敵視して、GMの描いた結果しか見ない私に悪意を抱いた。なんてわかりやすい真相だろう。いや、わかりやすくはない。彼の私に対する好意の正体なんて怪しいものだ。彼は私と会うより先にアウレーリアと出会ったのだ。そして彼はアウレーリアと自分のキャラとの結末を求めた。そこに思い至ったとき、私の胸の奥底からどす黒いものがこみ上げた。愛と未練を履き違え、その欺瞞にすら気づかない、私のもっとも憎むべき、唾棄すべき愚か者。それが彼なのだと確信した。
 私は彼を罵った。プライドをへし折るためでなく、ただ傷つけるためだけに、罵詈雑言を浴びせかけた。罵り出すと止まらなかった。楽しくて仕方がない。私の抱えるものも知らず、私に身勝手な妄想を押しつけ、意のままにならない私に安易な悪意を向けた男を傷つけるのは気持ちいい。私は無力感を忘れた。私の創ったアウレーリアより性悪デブスのエセ聖女を星野さんが選んだこと、愛したことをつかの間忘れた。
 私はその日、森山に絶交を言い渡した。
 後日、彼のキャラクターであるリアーヌの弟は、女性GMのシナリオで女性NPCを屍姦した。そして姉リアーヌに対する愛の言葉をつらつらと、公式サイト内の掲示板に当てつけのように書き込んだ。
スポンサーサイト
Copyright © 『アンチ・シンデレラ』 白木紅愛・作. all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。