何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

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028| 人気者の素顔
 スカイプにログインすると、メッセージが届いていた。
 比佐田キリアからだった。
「明日夜9時からFシナリオの面々でチャットをします。アネモネさんもぜひ来てください」
 リアーヌ専用シナリオの発足を機に、比佐田の態度が変化した。
 彼の方から頻繁に接触してくるようになり、ゲーム内でのリアーヌの行動をやたらと持ち上げる。絵描きとして圧倒的な支持を得ている彼のほうから私にすり寄ってくるなんて違和感があったけど、まあ、悪い気はしなかった。誉められることに慣れている人気者気取りの嫌な男が私に慣れないおべっかを使う姿を眺めるのは。いくら相手が人気者でも、いくら相手が私に媚びても、ゲーム内で関わり合いになるつもりはなかったから、私は適当に話を合わせ、適当に流していた。
 だけど気楽だったのは、最初の間だけだった。
「リアーヌさんと戦いたいっす。F-1bに行きたいっすねー」
 比佐田はしきりにそんなことをチャットで言うようになった。
 イラッとした。戦いたいって、なんだそれは。シェラフィータやその仲間のようなキャラクターの分際で、リアーヌ専用シナリオに乱入して何がしたいんだ。リアーヌの魔剣の餌になりたいってことですか、と嫌味を言ってやりたくなる。戦いたい、じゃないだろう。リアーヌをだしに自分のキャラを活躍させたい、の間違いじゃないのか。
 勿論そんなことは言わない。ブランジァン周辺は、匿名性の高さと低さが混在する微妙な世界だ。サークル『ブランジァン』の開催するオフィシャルなオフ会やコミケなどの場を介した実社会での交流と、誹謗中傷が容認される匿名掲示板のスレッド。そこはまるで学校のような、建て前と義務に満ちた厄介なコミュニティだった。思ったことを馬鹿正直に言ってるようではやっていけない。
 しかし人気者の比佐田には、そんな論理は通用しない。
「アネモネさんは、Fシナリオのプレイヤーで交流のある人っていますか? うちのチャットに呼びたいんすけどねー」
 彼にそう訊かれたのは、一対一の音声通話で話したときのことだった。
「先日のイベントで知り合ったばかりですけど、松下さんという方と交流があります」
「誰っすか、それは」
「F-2のミーシャのプレイヤーさんです。オフィシャルの絵板にイラストを投稿しておられる方で……」
「あぁ……」
 比佐田の声が嫌悪に濁った。
「俺、あの人、嫌いなんすよー」
「何かトラブルでもあったんですか?」
「いえ。交流自体、したことないっす。近づきたくないっつーか。あの絵がダメなんすよ。流行りのアニメの絵そのままじゃないっすかー。人気アニメの絵柄を借りて人気取りしてる感じがダメっすねー。俺、オリジナリティのない人ってダメなんで。自分の絵柄にはこだわりありますからねー」
 うわぁ、と思った。上辺だけの付き合いしかしていない相手にいきなり相手の知人の悪口を聞かせるなんてドン引きだし、しかも件の知人とは付き合い自体がないというし、てめえは無味無臭の絵柄のくせに人様にはオリジナリティを要求するなんて笑えるし、そもそもおまえのような奴は本物のオリジナリティの持ち主には何かと文句をつけそうだし、そもそもその松下さんは実はアニメの原画家で、とある人気アニメの絵柄に似ているのは当たり前で、自分の絵柄を主張するより他人の絵柄に合わせることが重要視される世界で生きている人で、それを比佐田の物差しでとやかく言うのはおかしいし、とにかくうわぁ、媚びた絵の巧さだけでちやほやされて勘違いしちゃった人気者(笑)の実態がこれか、気持ち悪い、私だってこいつに陰で何を言われてるかわからない、関わり合いになりたくないな、そんなことを一気に思った。

 数日後、松下さんがオフィシャルサイトにイラストを投稿した。
 その絵はFシナリオの主要キャラを描いたもので、リアーヌはまるで主役のように大きく可憐に描かれていた。空洞になった胸の奥で、嬉しい、という気持ちがかすかに湧くのを私は感じた。借り物の絵柄だと比佐田は言っていたけれど、そうじゃない、大切なのはそこじゃない、私が設定に書いたことを松下さんは汲み取って、自分なりの解釈でイラストに現してくれた。それが嬉しかったのだ。リアーヌがそこに存在している。この絵を描いた人の中には私の創ったリアーヌが確かに存在しているのだと実感することが出来るのだ。
 それは比佐田のイラストには備わっていないものだった。
 ああそうか、だから比佐田は松下さんのことをあんなに敵視しているのか。上っ面しか感じられない比佐田にも内面があることを、私は不意に意識した。
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