何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

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026| リプレイ小説より抜粋【2】
 街の中央広場に立つ木製の掲示板に、賞金首の似顔絵入りの張り紙が並んでいる。──リアーヌ・ブランシェ、十代後半から二十代前半。魔剣を携えた金髪の女。リューネ教会の管理下にある立ち入り禁止の神殿から魔剣を盗み、仲間の冒険者五名と官憲二名、リューネ教会の神官戦士三名を殺害した凶悪犯。魔剣の柄と刀身は黒く、鞘は付属していない。──
 己の手配書を眺めながら、リアーヌは軽く溜め息をついた。
「仲間って、誰のことかしら」
「かの脳天気な同行者のことであろう」
 リアーヌの傍らで、亡霊のような男が答えた。
 顔立ち自体は端正だが、くすんだ茶髪を無造作に伸ばした貌は年齢不詳で、浮浪者のようにも貴族のようにも見える地味な男だった。ただ眼光の鋭さが、幽霊のようなその男を群衆から浮き立たせていた。
 リアーヌは男の顔を見ず、自身の似顔絵を眺めていた。
 まるで似ていないと思った。過剰な色気の漂う顔に、大きく開いた豊満な胸元。清楚で華奢なリアーヌとは似ても似つかぬ似顔絵だった。教会にとって都合のいい、教会の望む悪女像を民に押し売りしているかのようだ。それともアルテュールたちが嘘をついてくれたのだろうか。あのとき古の神殿で魔剣を手にしたリアーヌは、直後、森の中にいた。魔剣もろとも転移して、神殿を離脱したのだった。封印の間に残されたアルテュールたちがどうなったのか、リアーヌにはわからない。ただ、手配書に記された一文、『仲間の冒険者五名と官憲二名、リューネ教会の神官戦士三名を殺害した凶悪犯』、この中に嘘が含まれていることだけは知っている。
「私、アルテュールたちは殺していないわ」
「伝説になる、とはそういうことだ」
 リアーヌは男の顔を見た。彼がどんな表情で主の不満に答えたのか、それを確認したいと思った。しかし男の青ざめた顔には、表情らしい表情はまったく浮かんでいなかった。
「私は伝説の存在になりたいわけじゃないわ」
 手配書に背を向けて、リアーヌは歩き出す。彼女のあとに男が続く。
「伝説を作るのは当人ではない」
「そうね……、確かにそうだわ……」
「私のようにはなりたくないか」
 男の声に嘲りが混じる。誰に対する嘲りなのか、それはリアーヌにはわからない。リアーヌは男を振り返らずに、前を見据えて呟いた。
「私はリューネ教会の創始者の末裔よ。あなたを剣に封じた者と同じ血が流れている……」
「なりたくてもなれぬと言いたいのか」
「そうね……」
「だが貴様は既に追っ手を殺している。教会の戦士を三名」
 それは、と言いかけて、リアーヌは口を噤んだ。
 それは魔剣に教わった古代剣術あってのこと、つまり魔剣との共謀で、自分ひとりの力ではない。しかしそれを言ったところでいったい何になるのだろう。自分が魔剣に選ばれたこと、魔剣の主となったこと、それらはすべて自分の意思で、ならば追っ手を屠ったことも自分の手柄であるはずだ。リアーヌは冷たく微笑み、男の暗い顔を見上げた。
「たった三人よ。あなたはもっと殺しているでしょ?」
「すぐに追いつく。いや……、追い越す、と言うべきか」
 街を行き交う人々は、賞金首リアーヌ・ブランシェ張本人には見向きもしない。似顔絵に描かれた人物とはまったく似ていないばかりか、魔剣らしきものすらも彼女は携えていないのだ、当たり前といえば当たり前だ。
 魔剣<外なる使徒の墓標>は、人の姿に化身していた。
 それは魔剣に封じられた男の生前の姿で、人の姿をしていても己については何も語れず、主リアーヌ以外の者には触れることすら叶わない。いかなる怪我もたたちに癒え、老いることも死ぬこともなく、しかし己の痕跡はこの世のどこにも残せない。それが封印されるということなのだと男はリアーヌに語った。
 辿り着いた安宿で男はリアーヌの腕を掴んだ。
「言っておくが」
「え、あ……」
 リアーヌは身を竦ませる。人の姿をしていても相手は生身の人間ではない、それはわかっているものの、場所が場所だ。狭い室内にはベッドしかない。相手が人ではないだけに、本能的な恐怖を覚える。しかし男の発した声は場違いなほど冷たかった。
「私の境遇に肩入れするな」
「どういう、こと……」
 いや、答えはわかっている。腕を掴む男の指にいっそう力がこもるのを感じた。窓の外が騒がしい。遠くに聞こえる誰かの叫びを、男の声が遮った。
「私の境遇に対するいかなる同情も憐憫も許さぬ。まして祖先の所業に責任を感じるなど……。私情で剣を振るうな。貴様は世界の外側を目指せ」
 それだけ言うと、男はリアーヌの返事を待たず、剣の姿に戻っていた。

(『外なる神々の囁き』第五回リプレイ小説F-1b『封じられた男』より抜粋)
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