何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

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025| ブランジァン主催のオフ会にて
 自分でもどうかと思うような服装で私は『ブランジァン』のオフ会に行った。総レースの白いTシャツに、タイトな白いミニスカート。ラベンダー色のキャミソールがレースのシャツから透けている。似合わねえ。ルックス云々よりも何より、性格的に似合わない。だけど黙ってさえいれば、こういう格好をした自分が異性に受けることを知っていた。
 会場内を見回しても、星野さんの姿はなかった。
 落胆を笑顔で覆い隠してFシナリオの卓に行くと、担当GMはもとよりそれ以外のGMやプレイヤーからも歓迎を受けた。
「セッション時のチャットログにはすべて目を通しています。魔剣はこの人が入手するんだろうな、っていうのは最初から思ってました。ロールプレイの密度と目のつけどころが違いますから」
 そう言ったのは、F-1シナリオ担当の志水GMだった。
 大したこともしていないのに随分持ち上げられてるな、と思った。リプレイ小説もろくに読まず、上の空で演じているのに、どうしてこんなに評価されるのか私には不思議だった。現実感がまるでない。誉められているはずなのに、顔は笑っているはずなのに、嬉しいとは思えない。
 現実が戻ってきたのは、イベント終盤のことだった。
 会場の隅にたたずむ星野さんの姿を私は見つけた。
 周囲には誰もいない。人が集まっているのは現役GMの周りだけで、そこから外れた場所に立つ星野さんはひとりだった。「こんにちは」と挨拶すると、彼は私の顔を見て、所在なさげに目をそらした。
「最近はどうですか?」
 星野さんの一言で、目頭が熱く、痛くなった。
 私のことを気にかけてくださるんですね。最近は、というか、あれからずっと辛いままです。キャラクターはそれなりに活躍していますけど、というか参加者募集PR用のオープニング小説に登場した魔剣を入手しましたけど、ぜんぜん楽しくありません。何をしても、何を言われても楽しいとは思えません。私の時間は止まったままです。毎日とても辛いです。一年前に戻りたいです。
 胸にこみ上げるそんな思いを言葉に出してしまう代わりに、「今作ではGMはなさっていないんですね」、無邪気なファンの顔をした。「自分の一存で決められることじゃないからね」。そう答えた星野さんが今期のGMに就けないことを残念がっているように見えたのは、そうであってほしいと私が願っているからだろうか。
 無邪気なファンを演じきれず、気の利いたことを言えない私の沈黙を遮るように、星野さんが話題を変えた。
「最近は、仕事で横浜に行くことが多くてね」
「え……、あ、大変、ですね」
 星野さんの意図が読めない。プライバシーに関することをいきなり私に言うなんて。それだけでも驚きなのに、横浜と言えば、私の居住地の近くじゃないか。知ってて言っているのだろうか。そうだろう、私はブログに書いている。横浜に行ったときの話を『死せる大地に遺されしもの』の専用ブログに何度か書いた。
 たたみかけろ、と頭の隅で自分自身が私に命じる。星野GMに一線を越えさせるんじゃなかったのか。ホストと客、その関係を破壊して、オフィシャルのルールの絶対性を覆すんじゃなかったのか。今がチャンスだ。周囲には誰もいない。私もよく横浜に行きます、今度お会いしませんか、それだけ言えば完了だ。だから、やれ。
 そんな声を意識しながら、私は何も言えずにいた。
 私には信じられなかった。こんなにうまく行くなんて、あれほどまでに望んだものがもうすぐ手に入るなんて、どうしても信じられなかった。うまくいっているだなんて、勘違いじゃないだろうか。そんな思いの方がはるかに現実的に感じられた。
 星野さんは困ったように視線をあたりにさまよわせ、私はそんな彼の様子をただ見ていることしか出来ない。そこに横槍が入った。数名の現役GMが落ち着きのない星野さんにからかいの声をかけた。星野さんは一瞬だけ不快そうな顔をした。失礼な人たちだな。私は現役GMにあからさまな非難の視線を送った。
「あちらで用事がありますので」と星野さんが立ち去った。
 その後のことは覚えていない。私にとってのイベントは、彼との会話とともに終わった。
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Copyright © 『アンチ・シンデレラ』 白木紅愛・作. all rights reserved.
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