何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

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022| リプレイ小説より抜粋【1】
 リアーヌは思案する。この場で五人を打ち負かし、無傷で魔剣を奪うにはどう立ち回れば良いのかを。
 ──五人とも、私に背を向けている。でも立ち位置はばらばらね。奇襲で無力化出来るのは一人、残りの四人とは交戦になる。彼らは殺人に忌避感を持つ。たとえ騎士のクロードでも、すぐには私を殺せない。それどころか、私の裏切りにショックを受けて武器を取れるかどうかすら怪しい者がほとんどだわ。でも油断は禁物ね。確実に勝つにはどうすればいいか、正解を見つけなければいけない。
 リアーヌは剣の柄に触れる。最初に狙うべき相手、確実に無力化するべきはやはり騎士のクロードだろう。対人戦の経験があり、判断力に優れる彼は、その高潔さも相まって一行のリーダー的存在だった。
 クロードは今、軽装だった。今回の探索に臨むにあたり、山岳地帯や獣道での動き易さを優先し、彼は革の鎧を選んだ。
 まるで動物を見るように、リアーヌは彼の尻を見た。
 身体能力の高い騎士を女の細腕で倒すには、致命傷よりも先に苦痛を与えた方がいい。だから狙うのは弱い部分、一撃で粘膜を傷つけること。その点、肛門は理想的といえた。苦痛で相手の歩行を封じ、運が良ければ大動脈損傷による致命傷を与えられる。いかに気高き騎士といえど、いかに屈強な男といえど、うずくまることしか出来なくなればもはや何の役にも立たない。リーダーの無様な敗北を一同に見せつけてやれば、彼らは大いに混乱し、そして怖じ気づくだろう。リアーヌは冷ややかに唇を歪め、手入れの行き届いた愛剣の柄を白い指でぐっと握った。
 そのとき、広間の空気が揺れた。
 黒曜石の神殿に男の声が響きわたる。
『愚か者が。貴様ごときが我の主になろうとは』
 それはこの場に居合わせた誰の声にも似ていない。空気を振動させるほどの大音声でありながら、空気を介さず頭の中に直接語りかけるような、人知を越えたまがまがしさを感じさせる声だった。
「うわぁ!」
 アルテュールが悲鳴を上げた。太古の歴史を研究すべく魔剣を求めた少年は、何かに弾き飛ばされるようにもんどりうって床に倒れた。シモンがその身を抱き起こす。いてて、と呻く少年にシモンが叱咤しようとしたとき、再び男の暗い声が広間の空気を揺るがせた。
『金の髪の娘』
 私のこと? リアーヌは無言で祭壇を見やる。
 祭壇に突き立つ魔剣が揺れた。まるで祭壇の周囲でのみ地震が起きているかのようだ。青い炎を帯びながら、黒い刀身が宙に浮く。使い手など不要だと、そう意思表示するように、魔剣はその切っ先をリアーヌの方へと向けた。
 広間に響く男の声が、嘲るような色を帯びる。
『娘よ。貴様、仲間を斬ろうとしたな?』
「な……」
 五つの視線がリアーヌに向いた。愛剣の柄を握り締めたまま硬直しているリアーヌを。誰ひとりとして男の言葉を鵜呑みにはしていない。それはリアーヌにもわかる。しかしリアーヌの潔白を信じている者もいない。何故リアーヌが仲間の背後で剣を抜こうとしていたのか、誰ひとりとして納得のいく理由を見つけ出せないのだ。そこに思い至ったリアーヌは、冷ややかに口を開いた。
「人聞きの悪いことを言わないで。私は意思を持つ剣から仲間を守ろうとしただけだわ」
『ほう。では我が力は求めぬ、と?』
 男の声に嘲笑が混じる。リアーヌは冷笑した。
「そうね。私は求めない。だって助けが必要なのはあなたの方だもの」
 傲然と言い放つリアーヌの胸元に魔剣が転移する。
 闇より黒い刃の先が神官戦士の心臓を捉えた。
『貴様を殺すことなど容易いのだがな』
「ここでなら、ね」
 リアーヌはまた、冷笑する。
「ここでならあなたは誰にも負けない。だけど……、あなたはここから出られない。この封印の祭壇の周囲でしか動けない。だから私を殺せない。あなたには、私の助けが必要だから。私なら、あなたを助けられるから」
『……望みを言え』
「私は世界の外側を知りたい。神と呼ぶべき存在がこの世のどこかにいるのなら、私は神に触れてみたい。かつて世界の外側に接触しようとした男が剣の中に幽閉され、魔剣として封印された……、そんな伝説を知っているわ。魔剣に封じられたひと、それがあなたなのでしょう?」
『歪められた伝説とやらが私の実像だと思うのか』
「いいえ、そうは思わない。ただ……、私ならあなたを再び世界の外側に連れて行ける。だから──」
『よかろう。貴様が我が主となるがいい』
 リアーヌの胸に向いていた刃の先が足下に落ちた。
 魔剣は宙に浮いたまま、まるで直立するように彼女の前で静止する。
 リアーヌがその柄に触れた。まるで重さを感じない。これが選ばれるということなのか。地上から失われて久しい太古の剣技のわざのすべてが彼女の脳裏に流れ込む。男の声がまた聞こえた。
『世界の終わりを教えてやろう』
 その囁きはどこか甘く、聞いたのはリアーヌひとりだった。

(『外なる神々の囁き』第四回リプレイ小説F-4『魔剣の花嫁』より抜粋)
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