何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

020| 緩慢な自殺
 最初にそれを見たときは、ついていけない、と強く思った。
 オフィシャルサイト内にある、キャラクター専用掲示板。
 オンラインセッションの参加者が自分の持ちキャラになりきって発言を書き込む場所で、如月凛はこの掲示板の常連投稿者だった。
 ついていけない、と思ったのは、如月凛に対してだった。キャラクターの立場を口実に、特定のキャラクター層に対して攻撃的な発言をおこなう。責任の所在として自分のメアドとブログURLを書き添えてはいるものの、「自分の名前を明かしているんだから、何言ってもいいわよね。私は匿名でしかものを言えない卑怯者とは違うんだし」と言わんばかりのふてぶてしさに私は不快感を覚えた。
 ここはこういう世界だから。これがここの遊び方だから。そう自分に言い聞かせ折り合おうとしてみても、嫌悪感をぬぐい去れない。だから前作『死せる大地に遺されしもの』では、私はアウレーリアになりきっての書き込みは一度もしなかった。
 だけど今回は書き込んだ。しかも如月凛の手法を真似て、特定のキャラクター層に対する挑戦的な発言に、自分のメアドとブログURLを書き添えるというやり方をした。
 容姿も作風も性格も、すべてが嫌いな女の手口をそっくりそのまま模倣する。有名になりたいわけではない。まして楽しいわけでもない。ただ、思い込ませたかった。星野さんが一目置く有名プレイヤーの如月凛、私は彼女に比類する新人女性プレイヤーだと皆に錯覚させたかった。この世界、有名人が勝つのではない、実力があれば勝てるのでもない、無名でも三流でも、こいつはすごい、そう思い込ませた者の言葉に影響力が宿るのだ。つまりは錯覚、まやかしの世界。だから私は虚像となり、偶像となることを選んだ。私にハマって良かったと星野さんに思わせるために。星野さんが一目置く如月凛に成り代わるために。
 偶像を演じるにおいて邪魔なものは捨て去った。
 私の感情、私の美意識、私の好みは殺して埋めた。

 掲示板に書き込んでも、変わったことは起きなかった。
 ブログのアクセス数が若干増えたこと以外には、抗議のメールも電波なメールもブログを荒らしに来る者も、どれひとつとして現れず、責任の所在の明記など形だけに過ぎないのではないか、如月凛は準実名とキャラクターを口実に悪意を発散しているのではないか、そんな疑念がなおいっそう強くなっただけだった。
 現に彼女は自身のブログで匿名掲示板を批判している。匿名発言は卑劣であり、言いたいことがあるのなら自分の素性を明記しろ、そんな前時代的な価値観を如月凛は振りかざす。彼女の主張はともすれば、自分の素性を明かしさえすればどんな暴言を吐いてもいい、そんな慢心に繋がりかねない。実名は善で匿名は悪、悪である匿名を規制しろ、などという二元論は、虚偽のプロフィールやなりすまし等で悪意を発散する者や、実名で意見を述べた者に危害を加える者といった新たな悪を生み出すのだが、私は如月凛との間に相互理解など求めないから、彼女に対して自分の意見を述べることもしなかった。
 ただ、そんな彼女を模倣して掲示板に書き込むたびに、私は自分の胸の中が澱んでいくのを感じていた。思い込ませた者の勝ち、楽しんだ者の勝ち、そう自分に言い聞かせ、掲示板に書き込むたびに、勝利とは真逆の何かが私の首にまとわりついた。
スポンサーサイト
Copyright © 『アンチ・シンデレラ』 白木紅愛・作. all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。