何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

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018| 誘惑
「ざまあみろ、と思っている人もいるでしょうね」
 アウレーリアの最終回、シナリオメイク失敗に対する森山の発言だった。幾度となく繰り返した不毛なやりとりのあとで、つまり「星野さんに頼みましょう」「いいえ、もう終わったことです」、そんなやりとりのあとで、森山の発した言葉だった。
 それが本音か。胸の奥で何かが冷えた。ざまあみろ、と思っているのはおまえ自身だろ。おまえがそう思っているから、そう断定出来るんだ。彼の踏み込んだ言動に信用ならないものを感じた私の勘は正しかった、私はそう、確信する。
 返事をしない私に対し、森山が「でも」と続けた。
「でも、僕はアネモネさんの味方ですから。アウレーリア嬢が最終回を得られるよう、何でも協力しますから」
 あざとい手口だ、と思った。周囲の参加者に対する不信感を私に植え付け、孤立感を煽った上で、自分だけは味方だとアピールして懐に入り込もうとする。私は鼻で笑っていた。自分が信用されていないことをよくご存知で。こんな幼稚な手口が私に通用すると思っているから、おまえは信用されないんだ。
「ざまあみろって思ってる人って、遊羽希さんのことですか?」
 変化球を投げ返す。遊羽希とは、如月凛と同じシナリオに参加していた男性だ。頭の悪そうな女性キャラを好んで演じる一方で、活躍している女性プレイヤーを敵視することで知られていた。
「どうでしょう。他にもいるんじゃないですかね」
「正直、眼中にないです。私にとって魅力を感じないキャラを創る人の評価や感想っていうのは」
 打ち上げオフでの遊羽希の様子が脳裏にふと、蘇る。
 自分のキャラを題材にした自作の掌編小説をインクジェットプリンタで印刷し、参加者に配布していた豚のようなオタク男。だけど誰にも相手にされず、話題になるのは私の小説。まあ、私は嬉しくなかったけど、むしろ悲しかったけど、そんな私にすら劣等感を抱くほどの豚なんだ、気が済むまで「ざまあみろ」と思っていればいいじゃないか。私はおまえのクソキャラをアリスの血肉にしてやったから。そんなことを思いながら、森山とのチャットを終える。
 森山の無神経ぶりが本気でウザくなってきた。
 こんな奴にいつまでも味方ヅラをされたくない。

 私が星野さんに頼まない理由、それは星野さんとの関係がホストと客に過ぎないからだ。自分が客に過ぎない以上、オフィシャルのルールは絶対だ。風俗店で私はいつも〝お客様のわがまま〟に苛立っている。客の立場にあぐらをかき、料金外のサービスを当然のように求める客は出入り禁止にすべきだと思う。彼らのような要求を、私は誰にもしたくない。リプレイ小説の書き直しは行わない、判定のやり直しは行わない、そのルールは絶対だから、私は星野さんに最終回を頼むことは決して出来ない。
 でも、もしも。星野さんにとっての私が、ただの客ではなくなったら。星野さんにとっての私が、他のプレイヤーとは違う、特別な何かになったとしたら。もしもそうなったとしたら、「オフィシャルのルールは絶対」という大前提が覆る。星野さんが私のことを特別視するようになったら、ルールの垣根を飛び越えて私は彼に要求出来る。アウレーリアの最終回を、個人的に要求出来る。
 無理だ、とは思わなかった。深刻な抑鬱状態にあっても、自分になら出来ると私は思った。打ち上げオフでの星野さんの様子。彼の私に対する態度は、他の参加者と接するときとはどこかが少し違っていた。
 やってやる。森山の無神経な発言に煩わされるのはもう嫌だ。私を守れるのは私だけ。私は私の望むものを自身の手で勝ち取ってやる。
 私はアウレーリアの名前で、あるいは彼女になりきって、ネット上の占いや心理テストを片っ端から受けた。結果をブログに転載し、長文コメントを書き添える。内容はエロネタばかりにした。リプレイ小説の内容から、星野さんの性的嗜好は推測することが出来たから、恥も外聞もかなぐり捨てて重点的にそこを攻めた。
 後日、森山がこんなことを言った。
「星野GM、あのブログを見てるなら確実にオカズにしてるぜw」
 そのつもりで書いたのだから猿のようにオナニーして私にハマってほしいのだが、森山は私のことを男の欲望に無頓着な天然女だと思ったようだった。
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