何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

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014| 終わりは何度も訪れる
 サークル『ブランジァン』のオフィシャルサイト上で、『死せる大地に遺されしもの』の各シナリオのMVPが発表された。CシナリオのMVPは聖女シェラフィータだった。「Cシナリオの展開にもっとも貢献した人物」としてイラスト付きで紹介され、「彼女がいなければCシナリオに救いはなかっただろう。聖女シェラフィータはこれからも人々の希望であり続けるに違いない」──そのテキストを執筆したのは、星野GMだった。
 終わった。『死せる大地に遺されしもの』という作品は、これで完全に終了だ。アウレーリアのその後について、オフィシャルスタッフが語る機会はもう二度と訪れない。私は声を殺して泣いた。泣きながら、私は自分が今日までずっと甘い期待を捨て切れず、何らかの救済措置を待っていたことに気づいた。ショックを受けるということは、MVPに選ばれるのがアウレーリアかも知れないと思っていたということだ。私はなんて甘いんだろう。脱落者ごときがMVPに選ばれるはずがないのに。
 でも、甘かろうがなんだろうが、私はやっぱり期待していた。
 短くていい、社交辞令でいい、星野GMの手で書かれた最終回が欲しかった。
 それが嘘偽りのない本心だ。ずっとそう言いたかった。
 森山の言葉を拒絶したのは、それがあまりにも完璧で、私の望みそのものだった、だから怖かったのだ。私は私のこの弱さを誰にも知られたくなかった。己の率直な欲求を弱さと断じてもみ消すこと、それこそが弱さなのだと心のどこかで思っていたが、真実よりも正しさよりも、恐怖心が勝っていた。これ以上、拒絶されたくない。星野さんに拒絶されて辛い思いをするのは嫌だ。だから私は本心を言わない。結局は、そこなのだ。私は自分の愚かしさを嫌というほど知っている。
 だから星野さんにメールを書いた。「今までありがとうございました。とても楽しかったです。次回作でもよろしくお願いします。あ、『死せる大地に遺されしもの』専用ブログは今でも更新しています。これからも更新していくつもりです。お暇なときにご覧になってください」と、ただ嘘だけを書き連ねた。メアドは個人宛ではない。サークル『ブランジァン』のアドレスだ。ゲームマスター宛てのメールはサークル経由で受け付けている。GMが個人的に返事を出すことはない、と但し書きがついてはいるが。

 打ち上げオフでの一幕を、私は不意に思い出す。
 それはカラオケに向かうとき。星野GMと森野の会話が私の耳に流れ込んだ。前後の会話は聞いていない。ただ、森野の口調から、小説内で活躍したキャラクターの生みの親が実際のセッションにおいてどのようなロールプレイを行ったのか、その技巧や発想について尋ねていることは把握出来た。
「如月さんは、俺が『ブランジァン』に入る前、一般プレイヤーだった頃から第一線で活躍していた人でね。まさかそんなベテランが自分のところに来るとは思っていなかったから驚いたよ」
 星野さんのそんな言葉が、空っぽの胸から離れない。
 私だって。私だって、有名プレイヤーだったら。もしも私にこの世界での活躍実績があったなら、私のキャラを担当したことを誇りに思ってもらえたのだろうか。最終回のシナリオメイクだって、ああ流石アネモネさんだ、やっぱりベテランはやることが違う、よし、それではこの破滅的なシナリオを全面採用し、その上で大団円をぶちあげてやろうじゃないか、そんな風に肯定的に受け止めてもらえたのだろうか。
 悔しくて仕方がない。私は一睡も出来なかった。
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Copyright © 『アンチ・シンデレラ』 白木紅愛・作. all rights reserved.
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