何故私は彼女を殺し、その肉を食らったのか。

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010| 蜘蛛の糸
 スカイプにログインすると、森山からメッセージが届いていた。
「ブログ拝見しました。新キャンペーン用のキャラクターも素晴らしいですね。お互いのキャラクター同士で兄弟姉妹や恋人といった関連設定を作りませんか?」
 恋人。その一言でげんなりした。まだ懲りないのか、こいつは。まだ私の創ったキャラクターでオナニーするつもりなのか。私は嫌だ。森山はどうにも信用ならない。あんな奴の妄想で自分の持ちキャラを汚されたくない。
 そんなことを思いながら、彼の提案を受け入れた。
 刺激したくなかったのだ。彼のあの無神経さが敵意や悪意に変わったら。そう思うと、怖かった。私にとって森山は爆弾同然の存在だった。アウレーリアに関することでこれ以上苦しみたくはない。アウレーリアの一件を延々と蒸し返されるくらいなら、新しいキャラクターを生け贄に捧げた方がまだマシだ。関係性なんて、どうとでもなる。「あなたのキャラクターは私のキャラクターを愛しているとのことですけど、私のキャラクターは他人を愛することが出来ないので、実質的には片思いですね」と言ったところでキレるような相手ではないだろう。人間的には信用ならない、だけど創作者としての森山の姿勢だけは信用することが出来た。
 私の創った四人のキャラクターのうち森山がもっとも気に入ったのは、エリート生まれの鬼畜美少女リアーヌだった。リアーヌの弟役を、彼は演じたいという。「僕のキャラは重度のシスコンなので」。キャラクターの名前よりも先に、森山はそれを私に伝えた。リアーヌが弟の想いに応えるなんて有り得ない、そう答えても森山は「それでもいい」と即答する。「相思相愛なんてつまらない、痛々しい方がいい、折角アネモネさんと組むんだから他では出来ないことがしたい」。それが森山の答えだった。
 何の感情もわき起こらない。欲しいものは、ここにはない。
「やっぱり星野さんに頼みましょうよ」
 生け贄を捧げたのに、森野はなおも蒸し返す。
「アネモネさんが傷ついていることは、キャラを見れば分かります」
 イラッときた。無神経な奴だな。傷ついている、と思うならそっとしとけよ。分かります、とか理解者ヅラなんてされたくない。理解者アピールをしてる時点で私のことなんて何も分かってないってことだから。
「アリスってキャラ。明らかに悪意があるでしょ」
 悪意だなんて、心外だ。軽いブラックユーモアなのに。聖女シェラフィータとその仲間を軽く皮肉っただけなのに。
「あれ、シェラフィータがモデルですよね。シェラフィータに対するどす黒い悪意を感じるんですけど」
「気のせいですよ。ありがちなお花畑キャラを皮肉っただけです」
「そういう発想になる時点で、傷ついている、ってことなんです」
「私は楽しんで創りました。アリスってキャラを」
「アネモネさん。星野さんに頼みましょうよ、個人的に最終回を書いてもらえるように。何度も言ってますけど、あのシナリオメイクは最終回でなければ確実に通る内容だった。不採用になった理由は、最終回だから。採用すればバッドエンドになるから。バッドエンドは参加者離れを招くから。つまり商業主義に反するから不採用にしたんだ。判定基準をねじ曲げたのはオフィシャル側です。ゲーム性を売りにしながら最後にそれを放棄したのはオフィシャル側なんです。理不尽じゃないですか。あなたが遠慮する必要なんてないんだ」
「遠慮とかじゃないです」
 私は傷つきたくないだけだ。やらないのは自分のためだ。動かないことが最良の選択、だから私は諦めた、だから私は受け入れたのだ。自分のために決めたことだ。他人に口出しされたくない。
 そんなことを思いながら、自分が未だに森山とのコンタクトを断ち切れない理由を理解する。彼は私の苦しみが理不尽なものだと主張している。誰にも理解されることのない私のこの喪失感が、理不尽なものだと主張している。だからなのだ。彼のエゴは私には不快だ。彼のことは信用出来ない。だけど私のこの苦しみを理不尽なものだと言い切ってくれる彼のその発言に、信用出来ない男が語る嘘かも知れない言い分に、私はすがっていたいのだ。
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Copyright © 『アンチ・シンデレラ』 白木紅愛・作. all rights reserved.
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